SDGs達成に向けた札幌宣言の実行-小島嶼国の持続可能な発展への化学工学の貢献- <ライブ配信併用>
開催概要
日時: 2022年9月16日(金) 13:00~17:00
会場: 化学工学会 第53回秋季大会 AA会場(ライブ配信併用開催)
主催: 戦略推進センター SDGs検討委員会
共催:システム・情報・シミュレーション部会、エネルギー部会、地域連携カーボンニュートラル推進委員会
協賛:日本化学工業協会、新化学技術推進協会、東京大学海洋アライアンス連携研究機構
後援: 国際連合工業開発機関(UNIDO)、日本学術会議
オーガナイザー:山本 光夫 (東京大学)、藤岡 沙都子(慶應義塾大学)、八木 正(三井化学(株))、松本 秀行(東京工業大学)、藤岡 惠子((株)ファンクショナル・フルイッド)
開催趣旨: 化学工学会は、2019年9月APCChE2019において『国連持続可能な開発目標(SDGs)に関する宣言-人々の「健康、安心、幸福」のための化学工学-』と題する札幌宣言を発表しました。SDGsを共有ビジョンとし、化学工学者が、化学工学と関連する技術の進歩を通して、人々のウェルビーイングの推進へ貢献することを第一の目的としています。
本シンポジウムでは、小島嶼開発途上国(SIDS)が直面する課題に着目し、化学工学会内に蓄積してきた豊富な知の活用とこれまでSIDSでの技術開発に携わってきた他分野の知や取り組みとの融合による課題解決の道を探ります。具体的には、学会内外の多様な視点からの講演に続けて、パネルディスカッションおよび参加者の皆さんにも加わっていただいての参加型のグループ討議を実施し、今後の共同の可能性を議論します。
プログラム
13:00-13:05 | 開会挨拶 | (東大院農) (正)山本 光夫 氏 |
13:05-13:30 | [招待講演] 大洋州地域におけるJICAによる国際協力の取組みについて | (国際協力機構) 天池 麻由美氏 |
13:30-13:55 | [招待講演] 種子島におけるCo-learningによる人と知の循環 | (鹿大工) ○佐藤 南帆氏、(鳥環大環) 下江 信之介氏、 (芝浦工大工) ○谷田川 ルミ氏・栗島 英明氏、 (千葉大社) 倉阪 秀史氏・宮崎 文彦氏、 (東大未来ビ) ○尾下 優子氏、 (東大未来ビ/東大総括プロ/東大院工) (正·修習)菊池 康紀氏 |
13:55-14:20 | [招待講演] 屋久島の水力発電とまちづくり |
(屋久島町観光まちづくり課) ○岩川 健氏、 (屋久島電工) 宮田 昇氏・ ○松竹 忠祐氏 |
14:20-14:30 | 休憩 | |
14:30-14:15 |
パネル討論 | |
15:15-16:15 |
グループ討議 | |
16:15-16:45 |
サマリー | |
16:45-17:00 |
交流会 |
講演要旨・チラシ
プロモーション動画
グループ討議まとめ動画
グループ討議結果
グループ1:大洋州地域におけるJICAによる国際協力の取組みについて
最初に参加者からの質問に対し、天池氏(所長)より、JICAのフィジーにおける電力技術者教育について回答があった。計画に参加していない他の国々からも研修の要望があるほど活発に活動を行っているが、コロナによる実地訓練の難しさや、教育した技術者がより良い環境を求めてオーストラリア等に散逸してしまう事例、開発途上国における文化の差により時間や品質に関してルーズになり事業の継続が難しくなる事例も紹介された。JICAの活動では、現地で活動を行って初めて顕在化する問題が多くあり、立案・計画の段階だけでなく現場での活動こそがその活動の成否を分けるのだと感じた。
これらの問題の個々の解決策について議論する中で見えてきた問題の本質は、先進国で生み出された技術を開発途上国の現場で実際に使う際の環境や文化のギャップである。技術支援の活動でありがちな政府対政府の取り組みだけでなく、現場と政府を繫いでボトムアップ的に意見を出していけるような構造こそがこれらのギャップを埋めていく鍵であると言える。
このような構造を作っていくためには、年代・立場を問わない取り組みや現地の人々との地道な信頼関係の構築が必要であり、常に自分の手で活動を作っていくという意識が持続可能な開発を生み出すのだと感じた。
グループ2:種子島におけるCo-learningによる人と知の循環
主に、種子島におけるCo-learning活動が現在の形になった経緯について議論となった。
地域で新技術導入や改革を進めるにあたっては、先例主義の強い行政や保守的な地域住民から拒否感を持たれることが多い。一方、改革を進めたい研究者・技術者側も地域の実状を詳しくは知らない。そこで地域の課題を利害関係者皆で学び合うCo-learningという形が出来上がった。
Co-learningの1番の課題は「無関心な人に情報をどう届けるか」である。1つの解決策として「子供から大人へ」のアプローチが挙げられる。子供が家庭で話題にすることや、子供が未来の問題について深く考えている姿を大人に見せることで大人の関心を集めることができる。中高生が学校で行う「未来ワークショップ」はこの解決策実現に大きな役割を果たしているが、その開催にあたっても最初は教育機関に受け入れてもらえなかった。教育現場の実状を知り、信頼関係を築くことで開催することができた。
Co-learning活動が一つの成果として実を結んだ例に、学生団体「のらねこ」の活動が挙げられる。「未来ワークショップ」への参加を通して地域への関心が高まった学生たちが中心となり立ち上げ、進学により種子島を離れても、進学先の友人や種子島の小中学生に向けて発信する活動を行っている。
大規模な新技術導入や改革は多くの人々を巻き込む。Co-learningによって相互理解が進み、信頼関係が築かれる。一方、Co-learningを始めるためにも信頼関係の構築が求められる。まずは、人とのつながりだ。
グループ3:屋久島の水力発電とまちづくり
グループ3の討論では、屋久島の持続可能な未来を創るための課題や今後の取り組みに焦点が当てられた。電力の安定供給という課題に対しては、小島間の連携が重要になるのではないかという意見が出された。本州から海底ケーブルを通して電力を融通してもらう方法は、コストがかかるだけでなく屋久島から本州への支出となってしまう。屋久島と比較的距離の近い種子島は太陽光発電に強みがあり、電力を融通し合うことができれば水力発電の強みである揚水発電を活かすことも可能となる。また、洋上風力発電の余剰電力から水素を製造している五島を参考に、余剰電力を本州に融通すれば島の増収を期待できる。種子島の取り組みを参考に、島間の設備見学を行政・学校・市民が行うことで具体的な進展が生まれるのではないかとの案が挙がった。
また、産業の発展という課題に対しては、まず屋久島の電力がクリーンであることがあまり知られておらず、もっとアピールするべきではという意見が挙がった。屋久島には大学が無く就職先も少ないため、学生のUターンが少ないことによる高齢化が問題になっている。屋久島のクリーンな電力をアピールポイントに、外部産業の誘致を進めることで若者が定着し屋久島の持続可能な未来に繋がると期待できる。上記の課題と今後取り組むべきことに対して、低コストな送電技術や、余剰電力の貯蔵・輸送方法の開発・実用化などが、化学工学が小島嶼の持続可能な発展に貢献しうる領域になると結論付けられた。
グループ4:アジア太平洋化学工学連合会議(APCChE)
グループ4では、学生、若手研究者の国際貢献というテーマで、APCChEに参加した二人の学生の実際の体験談を聞きながら議論を進めた。
異国間での調査研究のテーマを決めることは難航しがちである。APCChEで発表した学生はまず各々の研究テーマを説明し合い、それを組み合わせることでテーマを決定していた。その際に重要なことは、社会にはどのような問題点があり、技術をどのように適応していくかを確認することである。
この研究は協力的な研究であるため、自分自身の専門ではない分野について知識を得る必要がある。その方法としてはネットや本などがある。ネットでは知っているキーワードに関しては有用な情報を素早く得ることができるが、全く知らない知識を得ることが難しいという問題点がある。
その他の情報の入手方法として企業との連携も挙げられる。企業とのやり取りの方法としては企業との共同研究が主に挙げられるが、それ以外にもオンサイトでの学会参加などが挙げられる。オンサイトでの学会参加では普段積極的には触れないテーマに触れる機会があるというメリットがある。
実際に技術を導入する際に注意すべきことについても話し合われた。我々が技術を導入した方が良いと考える国にも独自の文化や考え方がある。我々が問題だと思っていることが現地の人たちにとっては日常であり、そこを積極的に是正することは難しい場合もあるだろう。逆にその国以外からの視点ではあまり重要視していない点を、現地の人たちは強く意識している可能性もあるため、コミュニケーションを図ることは実際に技術を社会に迅速に実装するうえで重要なことである。
またそのような交流から我々が得られる知見も多いと考えられる。
グループ5:地域連携に必要なことは何か?(化学工学者の視点で)
今後の持続的な発展には、地域との連携も重要な要素の一つである。ただ概念で理解しても、実際に何をすれば良いかはわかっていない。そこで地域連携に必要なことは何かについて、化学工学者の視点で議論を行った。結論は、地域の現場で行っていることに対してニーズを正確に把握して課題を定めて取り組むことが、非常に大事なプロセスであると分かった。そのためには実際に地域の現場に人が入って活動することが大事である。その観点からみると、地方出身の人たちが日本各地からコミュニティーを作っていることは、地域連携の好例であると考えられる。
また、社会づくりとともにSufficiencyを考えることも大事なポイントである。我々は化学工学の考え方に基づき、技術的なEfficiencyだけではなく、市民・社会までをタゲットにするSufficiencyに配慮することが必要である。対象となる地域・人々を超えてより幅広いコミュニティーに向けた、ニーズ、Efficiency、Sufficiencyを満たすためのアイデアを出していくことは、地域連携を実現するために重要である。
さらに、実際に未来社会を創っていくのは市民の役割であるため、地域連携のために必要な人材が流出することを防ぎながら持続可能な地域連携に繋げるために、化学工学的な観点から新たなモデルを構築していくことが欠かせない。
最終的には、化学工学の立場などから情報を提供し、相互に学び合い、地域行政や、地域住民にも当事者意識を高く持ってもらうことが非常に重要である。